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生産処理と発酵との関係性とアナエロビック。
公開日:2022年3月25日更新日:2022月03月26日
カテゴリ:良質さのお話。
<良質さの要因は、人の手が加わる箇所で発生する要素であり、その大きな要因が生産処理にあります。>
スペシャルティコーヒーのトレンドは、あまり知られていない情報ですが、生産処理工程の技術の進歩によって起きています。
生産現場で、コーヒーのフレーバーが良質になる要因には、コーヒー栽培に適した「土壌と気候」がまず大切な要因のひとつ。
それがワインでもよく耳にする「テロワール」と呼ばれる要因です。
そして、もう一つの要因が、あまり一般的には語られていないのですが、「生産処理工程」と呼ばれる要因で、それには「発酵」が起因している。
フレーバーの良し悪しもこの生産処理工程で決まってしまいます。
だからこそ大量生産ではより良質なコーヒーを生産することが難しいため、少量をきちんと管理し、より個性を活かすマイクロロットがスペシャルティコーヒーの業界では当たり前の認識となってきている。
テロワールはとても魅力的な要因だけども、それだけでは決して良質なコーヒーにはなり得ない。
人の手が加わる生産処理という要素をおろそかにしてしまうと、良質さが得られなくなってしまう。それくらいに、生産処理工程は品質を左右する要素となっています。
<生産処理工程>
生産処理とは、精選工程とも呼ばれますが、コーヒーチェリーから種子を取り出し、コーヒー生豆へと加工する工程を言います。
コーヒー豆は、コーヒーチェリーと呼ばれるフルーツの種なのですが、この果肉がとても甘くて糖度が高いので、収穫するとすぐに発酵をし始めてしまいます。
収穫直後から発酵し始める「果肉」や、種の周りの「ミューシレージ」と呼ばれる「ぬめり」をどう処理するのか?これが生産処理の取り組みになっています。
現在、生産処理工程には大まかに3タイプ(スマトラ式を加えると4タイプ)あると言われています。
生産処理の取り組みは、年々進化しているので、その解説をしていきたいと思います。
ボクがコーヒーに携わるようになったのは1995年くらいからで、今から26~27年ほど前になるのですが、その時代の生産処理工程は、ナチュラル(自然乾燥式)と、ウォッシュド(水洗式)という2つの生産処理だけだったように記憶をしています。
<ナチュラル(自然乾燥式)>
ナチュラルを自然乾燥式とも言いますが、これが昔からある生産処理で、果肉をつけたまま2~3週間かけて天日で乾燥させる方式ですが、果肉がついたまま乾燥させるので当然、発酵の香りがつきやすくなります。
<ウォッシュド(水洗式)>
次に登場したのが、ナチュラルと反対の考え方のウォッシュド(水洗式)です。
そもそも果肉が発酵してしまうのなら、収穫後にすぐに果肉を除去してしまおうという手法が、ウォッシュド(水洗式)の成り立ちだと考えています。
収穫後すぐに果肉を果肉除去機で剥いてしまい、種にまだ残っている、「ぬめり(ミューシレージ)」を水に浸けて、酵素の働きにより、ぬめりを取り除き、発酵臭を極力付けないようにする生産処理方式が、ウォッシュドです。
たぶんですが、果肉を剥いても、ミューシレージと呼ばれる「ぬめり」が発酵してしまうので、その「ぬめり」をどう処理するのかを試行錯誤した結果、大量の水に浸け込むことで処理できるところに行き着くまで、時間がかかったことだと推測されます。
水に浸け込んで処理をするので「ウォッシュド」。
そして、その味わいの特徴は、発酵の香りが無く、とてもクリーンでくっきりとした味わいになります。
<パルプドナチュラル>
そして、今から20数年前(2000年)くらい前から登場してきた処理方式が、セミウォッシュドと呼ばれる方式で、現代では「パルプドナチュラル」と呼んでいる方式です。
元々は、ブラジルで取り組み始めた方式(セミウォッシュド)で、その当時に聞いた情報は、ブラジルに水洗式が成り立たない理由は、ブラジルの水にはミューシレージを分解するバクテリアが存在しないらしく、水洗式で水に浸け込むだけでは、ミューシレージを分解できなかったことから、機械と少量の水を使ってミューシレージを取り除く方式を考え出したことがきっかけだったと聞いたことがあります。
そして、その機械で処理するセミウォッシュドに積極的に取り組み始めた国がコスタリカでした。
コスタリカは環境保護の国で、ウォッシュドだと、沢山の水を処理水として使うため、川の水が汚れてしまい環境汚染の観点から、少しの水で処理をしようと考え出されたサスティナブルな処理方法で、果肉を除去した後に機械によって少量のお水で、果肉のぬめりを取り除くという方法です。
初期のパルプドナチュラルの考え方は、機械でミューシレージを取り除くという、ウォシュドを機械により行うという要素でした。
このセミウォッシュドという言葉が登場することで、水に浸け込む水洗式を「フリーウォッシュド」と呼ぶようになりました。
ですので、味の特徴もウォッシュドと同じく、発酵の香りが無く、とてもクリーンでくっきりとした味わいになります。
<ハニープロセス>へと進化したパルプドナチュラル。
そして、このパルプドナチュラルという方式が7〜8年前くらい前から、果肉のぬめりをどのくらい残して処理をするのか?といった進化を遂げることになります。
「ぬめり」を残してポジティブに発酵を施し、ポジティブなフレーバーを登場させるという考え方へと進化しました。
それが、ハチミツのような粘性と甘さを登場させることから、「ハニープロセス」と呼ばれる方式で、「ホワイトハニー、イエローハニー、レッドハニー、ブラックハニー」など様々なボリューム感とフレーバーを登場させる生産処理工程として注目を集めるようになりました。
ですので、パルプドナチュラルには2種類のタイプの異なる方式があり、1つは発酵させないウォッシュド寄りと、もう一つは発酵させてポジティブなフレーバーを登場させるもので、後者をパルプドナチュラルの「ハニープロセス」と呼びます。
現代の良質な生産処理では、ハンモックのようにネット状のテーブル(ドライテーブル)のネットの上で乾燥させることで、発酵の香をあえて上品に、ポジティブに登場させるためには、手間がかかりますが「ドライテーブル」はかなり有効な手段だと言われています。
このドライテーブルは、すべての生産処理で使用されることで、評価を得る乾燥工程と言われています。
そして、ここ3〜4年前くらいから、すべての方式でより良質なコーヒーを生産処理される技術が進化してきており、品評会のオークションでは、さまざまな生産処理のものが上位に登場するようになってきています。
<アナエロビック>という進化した発酵処理。
そして、ここ数年で更なる技術革新が起こり、「アナエロビック」という「発酵処理」を施したコーヒーが登場し、コスタリカの品評会のオークションで高値で落札されたことで、その存在が世界に広まりました。
果肉が発酵する、その発酵を利用し、よりポジティブなフレーバーを登場させるという技術革新です。
嫌気性(けんきせい)発酵と呼ばれる方法で、空気を遮断した樽の中で発酵させるという技術で、これを応用することで、複雑なフレーバーを登場させることができる技術革新となり、現在もそれは進化の途中です。
この技術を応用することで、ナチュラルのアナエロビック、パルプドナチュラルのアナエロビック、ウォッシュドのアナエロビックなど、様々な生産処理方法とコラボさせたアナエロビックが登場しています。
そして、ここまで来るともうコーヒーでは無くなってきてしまうとボクは思うのですが、コーヒー以外のフルーツを同じ樽の中で嫌気性発酵させることで、コーヒー以外のフルーツのフレーバーを添加させることも可能となります。
どこまでをコーヒーと呼ぶのかは、今後議論となる局面を迎えることになりそうですが、ハニープロセスの登場くらいから、より発酵をポジティブなフレーバーとして登場させるための技術革新が起こり、現在に至っています。
その意識の変革が、今まであったナチュラルやフリーウォッシュドの生産処理の良質さにも向かっています。
そこにある意識は「発酵」でポジティブなフレーバーを登場させることです。
分かりやすく解説をするとするならば、お茶で例えて説明をすると、発酵させない緑茶が「ウォッシュド」の位置付けで、半発酵の烏龍茶が「パルプドナチュラルのハニープロセス」、紅茶が「ナチュラル」と考えると理解しやすいかと思います。
そして「アナエロビック」は、紅茶にフルーツを入れた「フルーツ紅茶」や、紅茶にジャムとシナモンを入れた「ロシアンティ」みたいなコーヒーです。
そして、これらの生産処理された素材を、どうローストにより活かすのかが焙煎士の腕の見せ所。
スぺシャルティコーヒーは、生産処理により生産者の想いが込められ、それを焙煎でどう活かすのかで、焙煎士の想いが込められます。