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なぜ、異質な感覚を受けるのか?
公開日:2020年11月18日更新日:2021月09月04日
カテゴリ:焙煎の味づくりのこと。
福岡の方で当店のコーヒー豆を取り扱いを始めてくださっている「living coffee」さんからの以下の内容の質問がございました。
この質問は、そこに気がつける人たちにとりましては、「異質」な感覚を受けると思っていますので、詳しくご説明をしておこうと考えました。
まずは、ご質問内容から。
> ひとつお聞きしたいことがあります。
> 先日ワークショップに参加されたお客様に香茶屋さんの豆をご紹介しました。
> その方がさっそくオンラインショップで香茶屋さんから豆を購入されたそうです。
> 普段からスペシャルティコーヒーを飲み慣れている方なんですが、
> 香茶屋さんの珈琲の味わいにかなり驚かれて、私のほうにもご連絡くださいました。
> その際に、今まだ飲んだスペシャルティコーヒーと苦みが違うのはなぜですか?
> と質問されまして、わたしなりに
> ・焙煎によるネガティブがないこと(このこと自体難しいことであること)
> ・素材の良さ、特に甘さが引き出され苦みとともに心地よく感じること
> ・ローストの甘さも加わっていること
> ・アフターテイストのすばらしさ
> これらが合わさって、苦みが嫌な刺激ではなく心地よく感じたのだと思います。
> とご説明しました。
> 伊藤さんがお客様に説明されるなら
> どのようにされるか教えていただけないでしょうか。
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まずはご質問をしてくれるくらい「驚きを感じる」ほどの違いを感じてくださったことを嬉しく思います。
そして、living coffee さんの質問の返答もキチンと理解されている返答だと思います。
なのですが、その「理由」となると奥が深く、焙煎の「技術的な背景」および、焙煎機の「蓄熱性」の話をしないといけなくなってしまいます。
ですので、まず質問である、
> 今まだ飲んだスペシャルティコーヒーと苦みが違うのはなぜですか?
の「苦味」というところは「どこの苦味」を指しているのか?
が問題になるのですが、たぶんですが「余韻の苦味」を指しているのだと考えています。
それは、思い当たる節があり、当店の場合は焙煎によって「透明感のある」ロースト由来の「ブラウンシュガー系のフレーバーを登場させられること」と、それが「酸味と融合して登場する」からだと考えられます。
キーワードは『透明感のある』ブラウンシュガー系の甘さのフレーバーと『クリーンな酸味』です。
まずは、焙煎の技術的な背景の説明から。
当店のローストの技術的な要素は、過去に香茶屋をオープンしてから10年間ほど他のコーヒー関係者と一切関係を持たなくしていた時期があり、その理由は「自分の味づくりの骨格をしっかりと定めたかった」という背景がありました。
個人的にボクは、新しい技術などを目にするとすぐに試してみたくなる性格だと自己判断をしていたからです。
なので、あえて情報を遮ることで、自分独自のコーヒーの味作りの骨格を形成したいと考えたことに起因しています。
そして、10年間も閉じこもって焙煎と向き合っていると、その間に偶然の産物なのですが、失敗からいろいろと発見があり、現在スペシャルティコーヒー業界で普及している考え方の焙煎とは異なる焙煎をすることになります。
そして、その技術を使うことで2018年に開催された「JCRC 2018」の焙煎の競技会の予選を通過することができたのです。
そして、その決勝大会では、予選を通過したボクを含めた6名の焙煎を見ることと、その焙煎のカッピングをすることができました。
それはとても大きな収穫で、当店のあえて閉鎖していた「鎖国時代」が終わり、新しい時代の技術の風が入ってきました。
それを持ち帰り、自身の焙煎機と向き合あい、現在に至るまでに、いろんな技術革新があったのです。
当店のオリジナルの焙煎と、時代の流れの中にある焙煎のハイブリッドの焙煎技術が混じりあったのです。
当店のオリジナルの焙煎は、酸味のクリーンさと液体の粘性、そのくっきりとした味わいの透明感。
時代の流れの中にある焙煎は、明るいフレーバーや明るい酸味だと認識をしています。
それぞれが融合したことで、当店のコーヒーにはそのすべての要素が混在するようになります。
前置きが長くなってしまいましたが、「フレーバーの背景(ベース)」の部分の熱量をコントロールすることができる焙煎技術を使っていること。
なので、簡単に説明をすると、煎り止め温度(ローストレベル)は同じままの設定で変えずに、酸味や甘さをコントロールすることが可能になります。
次は焙煎機の蓄熱性の問題です。
そして、独特の味わいは、当店の焙煎機は国産のFuji-ROYALの半熱風の5kg釜だということが大きいのです。
今、スペシャルティコーヒーの業界でよく使われている海外製の蓄熱製の高い焙煎機と比べると、どうしても「Fuji」は蓄熱製が低いため、熱源である直下型のガス火の熱量が直接コーヒー豆に伝わりやすいので、ロースト由来の「ブラウンシュガー系のフレーバー」がとうしても豊に登場し易く、そして「マットな茶色」になって登場しやすい焙煎機でもあります。
要は、焦げやすいと言うと分かり易いでしょうか。
なので、余韻が特に「マットな茶色」のフレーバーになりやすく、そしてフレーバーも余韻のロースト系のフレーバーは「濁り」やすく、そして「ザラつき」やすい。
そして、同時に良質なコーヒーならではの「明るい酸味やフレーバー」は登場させにくい焙煎機でもあるのです。
そこは、「焙煎機の特徴」でもあるので、ネガティブな要素でもあるのですが、考え方によってはポジティブにもなります。
これは後に気づくことになるのですが、要は焙煎機の「扱い方次第」なのです。
それを可能にしたのは、大排気量の「大型排気ファン」を特注で取り付けたこと、そしてその制御のために「インバーター制御」を取り付けたことが由来しています。
技術は、機能性とセットで考えなければなりません。どちらか一つが足りなくても実現はできません。
そこで、偶然見つけることができた余韻の部分の熱量を焙煎でコントロールができる技術があることで、蓄熱性の低い焙煎機でも、クリーンで透明感のあるロースト由来の甘さを表現することができています。
蓄熱性が高い焙煎機の場合だと、その技術を使わなくてもある程度は、余韻がクリーンになるので、ほとんどの焙煎従事者は、蓄熱性の低い焙煎機では限界を感じて、蓄熱性の高い焙煎機に乗り換える手段をとります。
「技術」ではなく「道具」を替えることでその問題をクリアするのです。
ですが、当店の場合はそれをせずに、蓄熱性の問題を技術力で「どこかに道があるのではないか?」と考えて、取り組んだことが新たな技術の進歩につながり、「技術」でそこを対処することができるようになったのです。
そして、インバーター制御により、明るく透明感のある酸味が登場できるようにもなります。
すると、ネガティブに考えていた味わいが、ポジティブな部分にもなることに気づきます。
それは、液体の粘性が豊になること。
そして、ロースト由来のブラウンシュガー系のフレーバーが酸味と混じり合うこと。
これが、蓄熱性の低い焙煎機を使うことのメリットとなり、そして焙煎してから味わいが落ちるまでの経過時間がとても長いことが「一番のメリット」だと考えています。
焙煎から1〜2ヶ月経っても、豊潤さがかなり保たれるのです。
ですが、難点としては蓄熱性の低い焙煎機は取り扱いがシビアなので、とても技術力が必要とされます。
そして、ほとんどの蓄熱性の高い焙煎機を取り扱う焙煎従事者は、その技術を使うことなく焙煎ができるので、その技術を知らない人がほとんどです。これは焙煎の競技会の決勝に出て気づきました。
なので、ある程度カッピングができる人でしたら、微細な違いに気がつけるはずなのです。
お客さまの質問のように「異質さ」を感じるからです。
これらをよりキチンと認識したい場合は、カッピングで「ロースト由来のフレーバー」と「素材由来のフレーバー」を識別できる能力と、「液体の質感(滑らかさ)の質」を感じる能力をまずは身につけることです。
すると、それら3つを「余韻」まで探ることができるようにもなります。
あとは「フレーバーの『香りの色』」を認識できるようになると、その「色」が「透明感がある色」なのか、「マットな色」なのかが認識できるようになります。
スペシャルティコーヒーの定義にもあるように、明るく透明感がある「色」が良質さを象徴していますので、「マットな色」はキチンと判断ができるとどこかしらに「劣る部分」があるものです。
「重たさ」であったり、「濁り」であったり、ひどい場合は「ザラつき」であったりします。
ですが、それを好んでいる消費者も多いことは事実です。
ですが香茶屋では、それらを焙煎により登場させないようにすることが、良質な焙煎であると考えているため、良質さを表現する「透明感」や「明るさ」を判断できる消費者からは、その「違い」を感じることができ「異質さ」を感じるのだと思っています。
長くなってしまいましたが、理由を説明しようとすると、焙煎の技術的な背景だけではなく、焙煎機の違いも説明しなくてはなりませんでした。